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沖永良部島「フーチャランド王国」

Posted 17 10月 2011 | By | Categories: Blog All, Motorcycle, | コメントは受け付けていません。

沖永良部島に「フーチャランド王国」というペンションがありました。旅先で印象に残っている宿の一つです。清潔であれば寝床には拘りが無いので、宿泊地は毎回旅先で探します。当然当たり外れもあり、佐世保では満室の中、親切で部屋を用意してくれたものの、二十畳の広い宴会場で一人夜を過ごしました。真夏の八重山ではクーラー完備で決めた宿のクーラーが壊れていました。シーズンオフの広いキャンプ場を独り占めにしたり、そもそも宿が見つからず、一晩中バイクを走らせたこともあります。

中でも「フーチャランド王国」は特別でした。多分看板とか、沖永良部島の宿を紹介するWeb Siteなどで見付けたと思うのですが、港で予約を入れた際は困惑した男性の声で「宿泊ですか?」と問われました。

オーナーは大阪人、チェックインの後一緒に居酒屋へ夜飯を食べに行きましたが、元々は世界中から雑貨を輸入する仕事をしていたと話していました。「フーチャランド王国」もまた、アフリカやら東南アジアやらの民俗雑貨が入り混じった、混沌とした場所でした。共同経営の片割れが離れてしまい一人では宿を回せなくなったこと、沖永良部島の観光事業の現状もあって、本当は休業中だった、とその時に話してくれました。「買わへん、ここ?」と大阪弁で言っていたのは、あながち本気だったのかもしれません。

蒸し暑い夜でした。普通は飲物を買い込んで部屋に戻るのですが、案内された部屋から自販機が見えていたので、その日は寄り道をせずに部屋へ戻りました。深夜喉が渇いたので自販機へ行くとボロボロに壊れていました。私以外、宿に人の気配は無く、通路には世界中から集めたと思われる民俗雑貨が並べられていました。仕方が無いので外へ出ようと宿の入り口へ行くと、開き戸は電気コードでグルグル巻きに固定されていました。解いて外へ出ることも可能だったのですが、何らか理由があってのことだろうし、言わばこのコードは鍵で、トラブルでもないのに鍵を勝手に開けて出ていくことには違和感がありました。
一旦部屋へ戻りテラスから出られないか確認してみると、小さなマグライトは全く役に立たず、隆起珊瑚の影が微かに見えるばかりで諦めました。

携帯電話は圏外でした。

喉の渇きを意識すると、時間は途端に遅く流れはじめます。心筋梗塞で入院した時、ICUで何よりも辛かったのは数日水が飲めなかったことでした。投薬のために意識は朦朧としてるし、腹も減らないのですが、喉の渇きだけは強烈に襲ってきました。看護師に何度も水を飲めないか尋ね、看護師もまたその都度主治医に確認してくれましたが、脱脂綿に水を含ませ唇を濡らすのが精一杯でした。「医龍」というドラマで、子供が一心不乱に氷を舐めるシーンがあるのですが、泣きました。心筋梗塞の痛みというのは、もう絶望的に強烈なのですが、喉の渇きというのも同じくらいの苦痛があります。私の場合はたかだか一週間ない程度の我慢でしたが、世界には、心臓に先天的な疾患を持っていて、何年も闘病している子供達がいます。もう、その戦いっぷりは凄いです。あの苦しみと何年間も戦っているのか、と思うと、私は言葉を失います。見返りのある苦痛ではありません。ちなみに昔大好きだったイチローなどのアスリートに全く興味が持てなくなったのはその頃からです。

人は、様々な種の痛みを感じ取れますが、喉の渇きは独特です。その夜、ICUでずっと眺めていた病院の天井を思い出しました。病院の名も、今自分がいる場所がどこなのかも分からず、ただ漠然とした状況で眺めていた風景です。意識が消えて、戻った時にも見えていたその汎用的な模様を思い返していました。

喉が渇いてたまりませんでした。隆起珊瑚に囲まれた宿は、明らかに一般的な社会から隔離されていました。擬似的とはいえ「ここは日本か?」と思いました。でも、それ以上に印象に残ったのが翌朝です。

前日、宿の主人が「朝飯は用意します」と言っていたので指定の場所へ行くと、誰もいない小さな食堂には一人分の料理が並べられていました。窓からは武骨な隆起珊瑚と抜けるような青空、東シナ海に水平線が広がっていました。とても綺麗な風景でした。ポットに入った暖かいコーヒーを飲みながら眺めるには最高の風景でした。今となれば少しだけ残念に思うのですが「フーチャランド王国」の写真が一枚もありません。何故、食堂の風景を撮らなかったのか、多分撮影を忘れてしまう一瞬だったからなのでしょう。

その後宿の主人が現れ、少し雑談をし、部屋に戻り旅支度を済ませ、金を払い、荷物をバイクに括り、宿を後にしました。商売人特有の怪しい匂いはありましたが、どこか憎めない、少なくともその時は気の良い親父さんでした。私の旅の無事を願ってくれました。

写真は「フーチャランド王国」から少しだけ離れた場所にある「フーチャ」近くで撮影したもの。屋号の由来と思われる「フーチャ」とは沖永良部島にある潮吹き洞窟のこと。バイクは当時乗っていた隼、来年こそはバイク復活したいです。

沖永良部島は、南西諸島の中でも孤高の気配を持つ離島です。観光客は少なく、昔その手の施設だったことを思わせる廃墟も残っていました。北西端にある「田皆岬」から望む風景は力強く、個人的には好きな場所の一つです。国頭小学校、幼稚園の校庭には日本一のガジュマルがあり、学校職員に見学が可能か尋ねると快く案内してくれました。

そして「フーチャランド王国」。とあるブログに取り壊されたとあったので、もう存在しないのかもしれません。大阪の主はどこへ行ったのでしょう。でも、いつの日かまた、バイクで訪れようと思います。

沖縄本島 – 石垣島

Posted 15 4月 2009 | By | Categories: Blog All, Motorcycle, | No Comments

有村産業が2008年に倒産していたことを本日知りました。2009年4月現在、沖縄新港(安謝新港)発着の八重山行き貨客船は姿を消したようです。個人的には、かなりショックでした。2006年9月に琉球海運が旅客を廃止、貨物だけの運行となったのですが、遂には有村産業までもが倒産、「飛龍」「飛龍21」の航路が閉じられてしまいました。現時点で沖縄本島から八重山へ向かう交通手段は空路だけになったようです。これで、八重山諸島バイクツーリングはハードルが一つ高くなり、旅の醍醐味も一つ消えたことになります。

福岡から八重山を目指す場合、沖縄本島までは鹿児島発、奄美海運の貨客船「あけぼの」もしくは「なみのうえ」が現在も運行していますが、その後バイクを貨物船(琉球海運)に乗せ人は空路で向かうことになります。前回の八重山ツーリング時、台風の影響で与那国島を出ることが出来ず、定期点検で運休に入る最後の便に乗り遅れ逆パターンを経験しましたが、まず料金が高くなります。細かな金額は忘れましたが、1300ccのバイクを石垣島から沖縄本島まで運んで16,000円程掛かりました。航空運賃は片道25,000円程です。また、石垣島から沖縄本島まで空路で45分程度ですが、船の場合は8時間程掛かるので、バイクの受け取りは翌日になります。料金は割高になり、日程にも無駄が出ます。

何よりも、安謝港から出航する八重山行きのフェリーには代え難い風景がありました。ターミナルの雰囲気は独特で、シーズン中は旅行者の活気で溢れています。甲板には強い太陽と空があり、水平線や、船体が切る水飛沫すらも青く澄んでいます。上陸前の車両甲板も印象深く、味気ない飛行機とは一味違う気配があります。船の扉が徐々に開き、美しい沖縄の離島が姿を現します。離島経由の貨客船は発着の時間が早朝だったりもするのですが、夜明け前の暗い港に接岸する船の姿は非日常的で強く記憶に残ります。南西諸島を渡るバイクと船の旅は、極上の旅の形です。2010年にはバイク復活、再度島々を渡る計画を立てようと考えていた矢先の話だったので、残念でなりません。無くしてしまうには余りに惜しい風景です。新たな海路の復活に期待したいと思います。